雪の轍

 

・梅雨明けて映画館まで歩きけり

インド映画のように歌や踊りもなく、
なのに3時間16分。
ああこれはもう寝る、ぜったい。
途中で小用に立つかもしれず。
などと
少々心配しながら臨んだのですが、
豈図らんや一睡もせず、
小用のために中座することもなく、
エンドロールまでちゃんと観ました。
どういう映画かといえば、
ええと、
じぶんの言葉で書くと長くなりそうなので、
安易で恐縮ですが、
パンフレットから引用させていただきます。
「カッパドキアで洞窟ホテルのオーナーとして裕福に暮らす元舞台俳優のアイドゥン。
しかし、若く美しい妻との関係はうまくいかず、
離婚して出戻ってきた妹ともぎくしゃくしている。
さらに家を貸していた一家からは家賃を滞納された挙句に思わぬ恨みを買ってしまう。
何もかもがうまくいかないまま、やがて季節は冬になり、
降りしきる雪がホテルを覆い尽くす。
客もいなくなり、閉じ込められた彼らは、互いに鬱屈した心の内をさらけ出していく。」
ということで、
カッパドキアって、
行ったことありませんが、
こんな土地なんだなぁとまずその風景に見入ってしまいます。
その息を呑むような美しい風景のなかで
繰り広げられる静かな人間ドラマとなれば、
これはもう。
期待は自ずと高まりまして。
いやはや、
夫婦、兄妹の壮絶な言葉のバトル。
観ているこちらがドッキドキするぐらい、
相手をこれでもかというぐらい突き刺す突き刺す。
どんだけ~(古)
肺腑を抉られるとはこのことかと。
また、
家賃を滞納している一家との物語では、
すぐに
「カラマーゾフの兄弟」を連想しました。
妻の下着を盗んだ泥棒たちの一人を刺して殺し、
刑期を終えて出てきたものの、
就職口がなく
無職のままながらも誇り高き兄と
イスラム教の導師の弟。
兄には小学校に通う息子がひとりいるのですが、
この子の目が実にいい。
裕福なホテルオーナーのアイドゥンを見る目、
アイドゥンの車に石を投げガラスを割ったのかと問い詰める父を見る目、
蓬屋を訪ねてきたアイドゥンの若き妻を見る目、
目、目、目が語る。
そして父と子の無言の対話。
泣かせるぜ!
濃密な物語にどっぷりと浸かり、
へろへろになって映画館を出ました。

・祈るごと黒玄米茶啜りけり  野衾