おじいさん

 

・赤々と我も陽を食む夏野菜

桜木町の駅から会社へ行く途中、
本町小学校横の階段を通りますが、
その端っこに
齢八十には達していないと思われ
(いや、達しているか?)ますが、
小太りのおじいさんが
よく寝ています。
半眼半口で、
寝ているというより、
眠っているようなのです。
眠っていて、
だれが通ってもピクリとも動きません。
いつだったか、
おじいさんを見て
ギョッとした(であろう)おばさんが、
すぐそばに建つマンションの
掃除係りの女性に、
どうやら「不審者」のことを告げているようでした。
話し声まで聞こえませんでしたが、
わたしの前を歩く女性(=おばさん)→
階段で眠るおじいさんを発見→
ギョッ→
後ろを見い見い、
かつキョロキョロし→
掃除係りの女性に話しかける→
話しながらおじいさんのほうにときどき目をやる、
と、
この一連の行動からして、
「あそこに変なおじいさんが倒れていますよ」
ぐらいは言ったのじゃないでしょうか。
おじいさん、
階段で眠れなくなるかな
とも思いましたが、
翌朝、
やっぱり同じ場所で眠っていました。
眠っていますから、
いくらあいさつ好きのわたしでも、
あいさつひとつ交わしたことがなく、
名前も素性もまったく未知ではありますが、
通るたびにそこにいますので、
親近感は自ずと湧いてきますよ。
ところが昨日、
おじいさんはいませんでした。
ん!?
ん……!?
そうか。
だよなあ。
くたばっちまわあ。
涼しいとこを見つけてそこで眠っているんだ。
そうにちげーねー!

・水割りの氷からりと動きけり  野衾