追悼・長田弘さん

 

・黙すれど照らし照らされ躑躅かな

詩人の長田弘さんが今月三日に亡くなりました。
七十五歳。
学生の頃から長田さんの詩に親しんできましたから、
寂しいです。
一度、社にお招きし、
親しく話を聞く機会がありました。
約束の時間よりも少し早めのお着きでした。
長田さんの好物がラスクだと
聞きかじっていましたので、
事前に用意したラスクを
コーヒーといっしょに差し出すと、
わたしの机の横で長田さん、
ゆっくり袋を破り、
一枚のラスクを手に取って
しげしげと眺め、
それからおもむろに口に運びました。
にこりともせず、
ガリッ、ガリッ、ガリッ。
約束の時間となり、
お客様の前でお話くださいましたが、
そのなかで、
全国紙と地方紙の違いは何か、
という問いを発しました。
それは
「おくやみ欄」の有無であると。
人の死が人の死でなく
数の死となった二十世紀、
個別の人の死を
個別に取り上げるのが「おくやみ欄」…。
そんなことを
考えもしませんでしたから、
なるほどなあと感じ入りました。
長田さんが病院でなく
自宅で亡くなられたことを知り、
少し安心しました。
深い思想を分かりやすく表現してきた
長田さんらしい死であると感じ、
たった一人の長田さんの
死を死んだのだと思いました。
ご冥福をお祈りします。

橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の十三回目が掲載されました。
コチラです。

・一日の疲れを遠く山蛙  野衾