よっ、世界一!

 

・途途に色を添えたるつつじかな

チャン・イーモウ監督の
『妻への家路』を観てきました。
いやぁ、
映画が終るまでの約二時間、
何度も嗚咽がこみ上げ、
声がでそうになるのを抑えるのに必死。
それぐらい、
素晴らしい映画でした。
中国の文化大革命によって翻弄される家族の姿を描いたものですが、
ストーリーはいたってシンプル。
文化大革命のなんたるかを知らなくても、
十分たのしめる映画です。
共産党に逆らって捕えられた陸焉識(ルー・イエンシー)が、
十年後、収容所から逃亡し、
夜陰に乗じて家に帰ってくる。
見張りが立つ警戒網をかいくぐり、
家にたどり着いた陸は、
ドアの下からメモをしのばせる。
メモには、
翌朝八時に駅の陸橋で待っている
と書かれていた。
コン・リー扮する妻の馮婉玉(フォン・ワンイー)は、
メモ書きを握り締める。
舞踊学校で主役を射止めたい娘の丹丹(タンタン)は、
陸の情報を教えれば、
主役に推薦すると
見張りの男に言われ、
「翌朝八時に駅の陸橋で待つ」という
父から母への伝言を密告してしまう…。
翌朝、
人でごった返す駅での緊迫したシーン。
家族三人それぞれの思い。
コン・リーの演技には、
今思い出しても目頭が熱くなります。
それぐらい凄みがありました。
群集の中、
「逃げて! あなた、逃げて!」と叫ぶ婉玉。
しかし、
陸は再び捕まってしまいます。
やがて文化大革命の嵐が過ぎ去り、
夫の陸が晴れて家に戻ってきたとき、
妻は一部の記憶が失われ、
夫を夫と認識することができません。
それを知った陸の驚きと
その後の献身的なふるまい。
ピアノの調律師を装い、
妻を訪ね自宅に入り、
音が狂ったピアノを調律しピアノを弾き始める。
そのとき、
右手の親指と人差し指のあいだに
傷跡があり、
拷問か強制労働の過酷さをしのばせます。
等々、
いい映画がどれもそうであるように、
ストーリーが面白く、
細部の演出が行き届き、
二時間ぐいぐい物語に引き寄せられて、
飽きることがありません。
そして感動のラストシーン。
ほーと溜息が洩れ、なんとも見事。
嗚咽はこみ上げたものの、
決してお涙頂戴にならない、
第一級の映画でした。

・大岡川白きつつじの白さかな  野衾