音楽の発見

 

せんじつ、弟から電話があり、要件をわたしに告げ、いったん話を終えた後、
また電話がかかってきました。
「さっき、いい忘れたけど、兄貴、美空ひばりの「みだれ髪」知ってる?」
「うん。知ってる」
「あれ、あらためて聴いてみると、いい歌だねぇ。いちにち何度も聴いてるよ。
なるべくボリュームを上げて聴いてみてよ」
「そうか。わかった」
というような会話をしましたが、
そういうことって、音楽にかぎらず、いろいろな場面、ジャンルで
起こりうるもののようです。
知ってはいるけれど、あるとき、襲われるように、
いきなりその世界観にわしづかみされるように感動する。
弟の場合、たまたまそれが、美空ひばりの「みだれ髪」だった
ということなのでしょう。
かつてわたしが勤めていた東京の出版社にIさんという営業職のひとがいました。
ひとをからかうのを趣味にしているような、
けして品のいいひととはいえないキャラの部長さんでした。
あるとき、そのひとがいきなりわたしのところに来て、
「みうらちゃん、NHKのテレビドラマ「阿修羅のごとく」で流れている曲、
あれ、みうらちゃん知らない? みうらちゃん、音楽も詳しいから、
知ってるかなと思って…」
わたしは、Iさんの「みうらちゃん」呼ばわりが気になり、
気に入らなかった(ひとによっては、「みうらちゃん」と呼ばれるのが、
ほかのどの呼ばれ方よりも心地いい場合もあります、念のため)
のですが、
それはそれとして、
NHKの「阿修羅のごとく」で流れている曲、
のほうに興味がいき、実際にテレビを観、聴いてみた。
そして、それが、トルコの軍楽隊が演奏する「ジェッディン・デデン」
であることを突き止めた。
「突き止めた」というほど大げさなことではないですけどね。
それで、その曲が収録されたCDを求め、
Iさんにプレゼントしたように記憶しています。
おもしろいなあ、と、おもいました。
Iさんと「ジェッディン・デデン」、
向田邦子脚本による内容と相まってのことだとはおもいますが、
ふだんのIさんの立ち居振る舞いから、どうしても結びつかなかったからです。
CDをプレゼントしたこともあってか、
Iさんはわたしをご自宅に招き、ごちそうしてくれました。
弟は美空ひばりの「みだれ髪」を発見し、
ふだん、ドゥァハハハハ…と品わるく笑うIさんは、
トルコの軍楽隊の「ジェッディン・デデン」を発見したのでしょう。
それからちょっと、
わたしのIさんを見る目が変ったような気がします。
ほんとうはIさんは極めてまじめな人で、
たとえばドゥァハハハハ…の笑いは、意図してつくったものではないのだろうか。
Iさんの自宅に招かれたときの、ご家族を紹介する姿は、
会社でのIさんとはまったく別人格のようにも思えました。

 

・梅に雪ほろりと落ちて梅が香よ  野衾