伊藤博の『萬葉集釋注』ようやく九巻目。
学術書ではありますが、
なんというか、
記述がゆっくりのびのびしていて、
たとえば、
恩師の沢瀉久孝先生との思い出とか、
万葉集ゆかりの地を訪ねたときの事とかに、
さりげなく触れられており、
けっして横道にそれるというほどでなく、
伊藤さんが若いときから万葉集をどう読んできたかが自然と想像でき、
なるほど、
そんなふうに、
じぶんの人生と絡めながら読む読み方があるのか、
と納得させられます。
そういう自身の体験のなかに
馬のことがありまして、
これまでも何度か印象深い記述がありましたが、
この巻にも馬に関する文章があり、
目が留まりました。
ちなみに、家持たちが乗って行った馬は、
別途国府に運ばれるよう手配されたのであろう。
道中ほとんど騎馬であった家持たちが、
任を終えてからは、寄り道をせずに、
船路を頼りに、
国府を目指したことは当然の心情といえる。
筆者は馬が好きなので異様に馬にこだわるのかもしれないが、
いかに乗り馴れた人でも、
騎乗を何日も続けると尻が切れて
堪えがたくなるものであることを言い添えておく。
(伊藤博『萬葉集釋注 九』集英社文庫、2005年、p.324)
伊藤博は、長野県出身。
・つれづれを横にながむる夏の雲 野衾