感情はやっかい

 小社の愛ちゃんが業田良家『ゴーダ哲学堂 悲劇排除システム』と同『空気人形』を貸してくれたので、さっそく読む。傑作漫画『自虐の詩』の作者らしい「哲学」がどの篇にも盛り込まれている。
 ギター一本で喰っていきたいと思っている浜田君にまつわる話「フォークソング」。彼には、キズちゃんという変わった名前の友だちがいる。
 顔のほとんどが包帯でぐるぐる巻きにされた子供で、左目だけが見えている。浜田君とキズちゃん二人でボロロンズを結成。ストリートミュージシャンとしてそれなりに人気も出てくる。
 それを見ていたジャングルレコードのプロデューサー獅子山浩一(顔がライオン!)が浜田君の自宅を訪ね、浜田君一人をスカウトする。獅子山は浜田君を会社へ呼び出し、役員に会わせ、サインを迫る。ニューヨークに行き半年修行と曲づくり、ロスで録音とミキシング、初のシングル曲は化粧品会社のコマーシャルとタイアップ等々、ミュージシャンの卵が喜びそうな美味しい餌を次つぎ並び立てる。ギター一本で喰っていきたいと思っている浜田君にはこれ以上ない夢のような話。
 ブルブル震える手で契約書にサインをしようとしたその時、浜田君の顔から血が吹き出し、契約書にぽたりと落ちる。浜田君もキズちゃん同様、血の出る体質だったのだ。
 結局、契約を断り、キズちゃんのところへ戻る。「まだギターで喰えてるわけじゃないけれど、オレたちギターで生きてます!」となってエンド。「オレたち」に圏点が付されている。
 傷つき血の出る体質は出来れば排除したい。でも、その体質があっての人間ということなのだろう。
 きのうは、この御殿山からもいい月が見え、放哉の「こんなよい月を一人で見て寝る」を思い出しながら布団にもぐった。