そぐわない

 行き付けの床屋に毎月一度は行って電気バリカンで頭を刈ってもらうのだが、先日行った時のこと、「世の中、クリスマス一色だねえ」と言ったら、「現実にそぐわないですよ」ピシャリと言われた。それもそうだ。
 「そうだねえ」「そうですよ」「あっちは行ってるの?」「全然行ってません。行かなきゃならないんですけど…不況不況で」「そうよなあ」
 「朝、材料屋が来たんですけどね、来年のカレンダー持ってこないんですよ。材料屋がカレンダー持ってこないでどうするのっつうの。ったくねえ、あったまきましたよ。ま、貰えば貰ったで掛けておかなくちゃならないから、気に入らないものだと困ることもあるんですけどね、でも材料屋がカレンダー持ってこないんですよ!」相当腹に据えかねている様子。この勢いで頭をガリガリやられたんでは堪ったものではないから、こういうときは、こちらの身の不幸を披露しバランスをとるのが一番と思われ、慌てて、インターネットで注文した来年のカレンダーが大ハズレし、会社の皆に大笑いされたことを開陳、ぼくより少し年下の床屋は「三浦さんも苦労されてるんですね」と言い、ようやく少し落ち着いたようだった。
 御代を済ませ外へ出たら、商店街のどこかの柱に縛られた安スピーカーからジングルベーがこれでもかといわんばかりに流れていた。床屋、あんなの耳にするたび、また、あったまくんだろうなあ。