『中島のてっちゃ』

 

・春の山烟りて猿の心かな

秋田に無明舎という出版社がある。
春風社を起こす前から、
また起こしてからも、
いつも心に留め、
社長の安倍甲(あべ・はじめ)氏が書いた
『力いっぱい地方出版』
『田んぼの隣で本づくり』
などを読んで参考にし、
舎主のブログを読むことを日課にしてきた。
無明舎は、
社長の安倍さん
(本名は安倍甲と書いて、あべ・はじめだが、
あんばいこうで通っているようだ)が
秋田大学在学中に起こした、
「古書と学習塾と企画の『無明舎』」が
そもそもの始まり。
舎のホームページに記されている。
その後、
秋田の放浪芸人「中島のてっちゃ」こと
工藤鉄治の半生を紹介する
『中島のてっちゃ』の執筆・刊行を機に、
出版業に転じたと。
その『中島のてっちゃ』、
読んでみたいとかねがね思っていたが
すでに絶版になっており、
願い叶わなかったのだけれど、
このごろどうしても読みたくなり、
ネットで検索したら、
古書で一冊だけ出ているではないか!
アマゾンさまさまさっそく購入。
「市長の名を知らずとも、
中島のてっちゃの名を知らぬものは秋田市民にあらず」
と言われたひとの一代記!
面白くないわけがない。
若さと真摯さとみずみずしさが行間に息づき、
ぐいぐい読ませる。
貪るように一気に読了。
面白かった。
無明舎の最初の本がこれだったかあ!
いろんなことを思い考え感慨に耽りました。
中島のてっちゃがよく通ったという「まんぷく食堂」には、
子どものころ、
父と母と弟といっしょに秋田市へでると、
必ず、
ではなかっただろうが、
たびたび入ったと記憶している。
弟が「中華とラーメン!」を注文したと、
その後親戚内で話題になったのも
その食堂でのことではなかったか。
ところで、
中島のてっちゃ、
本の中に写真がけっこう入っていて、
あっと驚いた。
根本敬のマンガ『生きる』に登場する
村田藤吉と吉田佐吉を彷彿させるからだ。
ひょっとして村田吉田のモデルか?
そんなこともあるまいと思うのだが、
いやいやわからないゾ。
長靴履きの風貌だけでなく、言葉づかいもなんとなく
似ている。
中島のてっちゃ言うところの「巡査なば、何ンともなねな」、
吉田が言うところの「さすけねな」と、
「ねな」でもって韻を踏んでるっていうか、
同じだもの。
まその、因果っちゅうか。
というようなわけで、
念願かなった『中島のてっちゃ』大変面白かったです。

・急坂を上り下りの桜かな  野衾