カブトガニ

 15年前、ということは20世紀、に買ったエアコンを取り外し、ついに、21世紀型の新しいエアコンが設置された。(ご承知と思いますが、ぼくが設置したわけではありません。業者の方が設置してくれました。念のため)
 まず驚いたのは、音が静かであること。スイッチを入れると、ピ、スー…………で、灯りが点いていなければ、駆動しているのか怪しく思うぐらいに静か。この前までの、蝿が飛んでいるようなあの五月蝿さは何だったのか。
 それから、ぼくは、だいたいにおいて機械音痴なので、買う時に「色々な機能は要りませんから、なるべくシンプルで安くて頑丈なのにしてください。エアコンとしては、暖房と冷房と送風があればそれで結構です」と言った。にもかかわらず、設置されたエアコンを見たら、いま流行りのマイナスイオン発生装置が付いている。標準装備なのだろう。健康にいいとかなんだとか、テレビで見たことがあるし聞いたことがある。マニュアルを見ると、ここがマイナスイオン発生装置と矢印で示されていた。
 エアコンの傍に寄って仰ぎ見る。たしかにピョコッと小さな出っ張りがある。ははー、ここから出るわけね。どれ、じゃあ、そのマイナスイオンなるものを存分に浴びてみようじゃねえか。
 眼を閉じて、ブナ林の中ででも遊ぶ自分を想像してみる。スローモーションで走るおいらを恋人が亜麻色の長い髪をなびかせ、これまたスローモーションで追いかけて来る。きゃっきゃっきゃっ、うーん、青春!
 しばしの瞑想の後、貧困な想像から覚め、眼を開けてみたのだが、別に何らの変化も見られない。改めて全身の細胞をていねいに点検してみた。が、血圧が下がったとか、尿酸値が下がったとか、IQが上がったとか、そんな特別なことは何にも起きていないようだ。本当に体にいいのかコレ、と疑問に思ったけれど、頼んで付けてもらったわけでなし、ま、良しとした。
 さて、このエアコン、じっと見ていると、じっと見ていると、なぜか、カブトガニの甲羅を連想するんだな。スターウォーズに出てくる何とかという戦士の兜にも似ており、とても変な形だ。つい、見てしまう。