Tendon?

 このごろになってやっと冬らしく寒くなり、なんかあったかいもの食べたいなーで、鍋焼きうどんを食べに太宗庵へ行った。
 昼どきのこととて、いつものように客でごった返している。わたしは予定通り鍋焼きうどんを、武家屋敷はたぬきソバ定食(ご飯少なめ)を注文。待つこと10分、あつあつの鍋焼きうどんとご飯少なめのたぬきソバ定食が運ばれてきた。少なめにしてもらったご飯をさらに武家屋敷は半分わたしにくれた。食べる量を気にしているようだ。
 前日オランダから旧友上田聡が帰国し、久しぶりに一献傾け大いに盛り上がり朝の2時まで飲んだ。気の置けない友と酒を飲むことほど楽しいことはない。が、胃は弱る。卵入りの鍋焼きの汁が胃の腑に染みてゆく。
 と、わたしの後ろにいた客に料理を運んできた女将さんが「天丼? いいですくゎ?」と言った。「ん?」と耳を疑った。いつもなら「はい天丼。お待ちどうさま」と言うはずなのに。それに、書き言葉ではなかなかニュアンスを伝えにくいが、「天丼? いいですくゎ?」は、“Tendon?” “iidesukwa?”と聞こえる。つまり、“イズ ゼサ ペン?”のような感じ。あやしからんと思い、体をねじって後ろの客を見たらフォリナーだった。納得! そうか、外国人だから、女将さん気をつかって「天丼」でなく“Tendon?”、「お待ちどうさま」の代わりに“iidesukwa?”と言ったのか。
 鍋焼きうどんを平らげ、サービスでいただいたお新香をつまみに武家屋敷からもらったご飯も腹に収め、気持ちまでなんだか福福した。
 レジで御代を払うとき、女将さんに“Tendon?” “iidesukwa?”のことを訊いたら、顔を紅くし恥ずかしそうにした。無意識の気遣いだったのだろう。