風景

 家の近くの古い木造家屋が火事で焼けてからひと月以上が過ぎ、毎日業者が来て後片付けに余念がない。
 丸焦げになっていた庭の植木は、あんなに黒く焼かれて焦げ臭かったのに、植物の生命力というのは大したもので、なかに死ななかったものもあるらしく、黒い枝のあちこちから緑の新芽が吹き出ている。
 先日、朝、出掛けにそこを通ったとき、全焼した家の老ご主人が、業者の人に向かって、わたし、ちょっと出掛けてきますから、後はよろしく、と言ってサッと手を上げた。火事が起きたとき対策本部のホワイトボードに、たしか世帯主72歳とあったけれど、50代ぐらいにしか見えないので、不思議な気がした。
 季節はようやく秋を迎え、真っ青の空はますます青く、丘の向こうのランドマークタワーが白くそそり立っていた。