やはり強運

 友人のナベちゃんが我が家に遊びに来て帰った翌日、目が覚めたら、命の次の次ぐらいに大事にしていた釜山で買った革ジャンが失くなっていることに気づいたことは、すでに ここでお報せ したとおり。お店のママやわたしがいくら忘れなさい忘れなさい、また釜山へ行って買えばいいじゃない、と諭しても、ナベちゃん、頑として受け付けず、カウンター越しに遠くを見つめて眼を輝かせているばかりだった。
 きっと、戻ってくる。
 戻ってなんかきやしねーよ。
 うんにゃ、戻ってくる。
 こない。
 くる。
 こない。
 くる。
 ……際限がないのだった。
 昨夜、帰宅して11時を過ぎた頃、携帯電話が鳴ったので出てみたら、ナベちゃんだった。ん!? 「渡辺です」と妙に神妙だ。「心配かけたけど革ジャンあった。ありました」「へえ、やっぱり出てきた? 凄いね! 強運だね! 出てきた! へえ!!」
 ところがナベちゃん、命の次の次ぐらいに大事にしていた革ジャンが見つかったというのに、どういうわけか、あまり意気があがらない。聞けば、届いた先が今回ばかりは保土ヶ谷警察でなく母上(?)だった。
 酔っ払って玄関口で倒れているナベちゃんから革ジャンをそっと脱がせ、ハンガーに掛けて大事に仕舞っておいてくれたそうだ。息子がいつも気に入って着ているのを知っていたのだろう。ナベちゃん、恐縮してすまなさそうな声だったが、強運には変わりない。失くした革ジャンが出てきたのだから。ストーリー展開がいつもと少々違っていただけ。