物語

 小社PR誌『春風倶楽部』第6号の特集「物語の可能性」へ原稿を寄せてくれた山田太一さんは、「人間はむき出しの現実になど耐えられないから、いつも物語を必要としている」とおっしゃっている。原稿をいただいたときは、そのとおり理解したつもりになっていたが、今、ふと思い出して噛み締めてみると、なんと切実な言葉なのだろうと驚く。物語なしのリアル、むき出しの現実というのは、怖くて目を塞ぐか耳を覆いたくなるようなもので、例えば、ムンクのあの有名な絵は、そういう人間のリアルな姿を表現していたのかもしれない。