不安と期待

 『新井奥邃著作集』別巻のデータと版下のすべてを印刷所に渡し、編集作業はとりあえず完了。あとは本の完成を待つのみ。来月二十日頃になる予定。
 九巻までP社のOさんが担当してくれていた。回を重ねるたびに、阿吽の呼吸とでもいうのか、つうと言えば、かあ、余計なことをしゃべる必要はなく、ちゃんと仕上がってきた。予定通りの刊行ならば最後までOさん担当でフィニッシュできたのに、新資料の発見やら編集作業の難易度がますます上がったことなどにより、最終巻がことのほか遅れ、その間にOさんは定年でP社を退職された。残念だったが仕方がない。その後をKさんが引き継ぐことになった。
 きのうもKさんから電話があった。Kさんにしてみれば初めてのことであり、全集の最終巻ということで相当プレッシャーがかかっているようなのだ。こう言っては失礼かも分からないが、そのことがありがたい。Oさんが残していったファイルを改めてつぶさに眺め、気になるところがあれば、すぐに電話で連絡をくださる。先輩であるOさんがしてきた仕事の最後を自分が汚すわけにはいかないというこころざしがひしひしと伝わってくる。ほかの本も同様だが、かかわる人の知恵と工夫と苦労、多くの思いが込められて一冊の本ができる。特に、最初の配本からかかわって陰の大きな力になってくれたオペレーターの米山さんにはいくら感謝しても感謝しきれない。漢文、漢文、漢文と、これでもかというぐらいに漢文ばかりが続く巻もあり、大げさでなく、彼女がいなければこの企画は完成することはなかったろう。できあがる前なのに少し気が早いかもしれないが、全集の最後の巻を待つというのはマラソンのゴールを待つようなもの。感慨もひとしおだ。