おごおごしい

 わけあって皆でパソコンに向かいレンブラントの絵を見ていたときのことだ。学会に持っていく本を用意していた専務イシバシが「レンブラントって、どこか、おごおごしいわよね」って言った。
 おごおごしい?
 発する言葉が最近とみにブロークンかつアバンギャルドになってきているイシバシだが、「おごおごしい」というのは初めて耳にする。
 おごおごしい?
 こういうときに物を言うのが付き合いの長さだ。一般的に単語の誤り、思い違いは、文字がパズルのように入れ替わることによって起こる(たとえば「トウモロコシ」が「トウモコロシ」、「ガリレオ」が「ガレリオ」など。もっとも「ガリレオ」の場合、ガリレオ・ガリレイというのだから、しゃべっているうちに、ガリレオ・ガリレイだったか、ガリレイ・ガリレオだったか、ガレリオ・ガリレイだったか、ガリレイ・ガレリオだったか、だんだん分からなくなってくる。ま、彼を話題にするときは、ガリが付いていれば何となく相手はわかってくれるから良しとしている)ことが多いけれど、弊社イシバシの場合、二つの単語がイシバシ的に合体されて新しい語彙を生み出すことが少なくない。
 おごおごしい?
 われわれがパソコンに向かい例の絵を見入っているときに発したタイミングからすれば、それは、褒め言葉、賞賛の言葉であることは明らかだ。
 ふむ、見えた!「おごおごしい」とは、おそらく「おごそか」と「神々しい」がイシバシ的に合体したのだろう。さっそく彼女に確かめてみたところ、当たっていた。
 そう思って見ると、たとえば「放蕩息子の帰還」などレンブラントの絵というのは、どれも確かにおごおごしい。