野衾

 

 野衾の怪の羽音す宵宮かな

『鏡花全集』を嘗めるように読んでいたら、
巻二に「照葉狂言」が収録されており、
その三つ目が「野衾」の章。
野衾と書いて、のぶすま。
ふすまという字は、
「衾」のほかに「襖」がありますが、
建具としてのそれは「襖」のほうで、
「衾」は、
同衾という語からも想像できるように、
現在言うところの掛け布団を指すようです。
この言葉を知って以来、
のぶすま、のぶすまと、
連日連呼しています。
なんだか、とってもおもしろい!
鏡花はその章をどんな風に書き起こしているのか、
その触りの部分、
「其翼廣げたる大きさは鳶に較ふべし。
野衾と云ふは蝙蝠の百歳を經たるなり。
年紀六十に餘れる隣の扇折の翁が少き時は、
夜毎に其の姿見たりし由、
近き年は一年に三たび、三月に一度など、
たまたまならでは人の眼に觸れずといふ。
一尾ならず、二ツ三ツばかりあり。普通の小さきものとは違ひて、
夏の宵、夕月夜、灯す時、黄昏には出来らず。
初夜すぎてのちともすれば其翼もて人の面を蔽ふことあり。
柔かに冷き風呂敷の如きもの口に蓋するよと見れば、
胸の血を吸はるゝとか。」
あはははは…
血ぃ吸うたろかぁてか。
宵闇に、ばさりふわりとやって来て人の面を蔽ふ野衾、
かっこいいではないか。
だから今日も、野衾野衾!

 野衾や華やぐ世々の裏表