最終面接

「どうぞ、こちらの席へ。どうぞどうぞ」
 ということで始まった今回の最終面接者。女性。黒のスーツをピシリと着こなしている。左目の下まぶたにほくろがあり、チャーミング。関係ないか。いや、大いに関係ある。あのほくろ、千昌夫のように眉間にあったらどうだった。印象はがらりと違っていたはず。
 こちら(専務イシバシ、武家屋敷ノブコ、わたし)の質問にハキハキ答え、若さが迸るようだ。声の大きさもいい。けして流暢というわけではない。どんな質問にも集中して答えようとする姿勢が感じられる。
「ここはご覧のようにオープンスペースで、面接に限らず初めてのお客さんは皆に監視されているようで相当緊張を強いられるようですが、いま、緊張していますか」
「いえ。居心地がいいです」白い歯がこぼれた。
「編集者募集の期間が終わってからの応募だったわけですが、ホームページをご覧になってどういう印象を持たれましたか」
 応募があったとき電話に出たイシバシに、彼女は、わたしが書いた文章と武家屋敷が書いた文章に感動したと言ったそうだから、そのことを踏まえて、同じ質問をしてみた。
 すると、
「……こういうことを言ったら失礼かもしれませんが、経営が……難しいだろうなぁと思いました」
 は。……。場内、いや、社内、爆笑のうず。わたしも思わず大笑い。経営困難経営困難。その通り。安定志向なら出版社は受けてはならじ!
 すると、彼女、
「経営が難しいだろうのに、作りたい本を楽しみながら作っている、そういう印象を受けました」ふむ。うれしいことを言ってくれるじゃねえか。
 最後にイシバシが「ここにいらっしゃるのが最後かもしれませんから、何かおっしゃりたいことがあったらどうぞ」と水を向ける。
「……わたしはこれまで直感で生きてきた人間です。……春風社はわたしに必要と強く感じました。……ここで働かせてください!」ぺこり。
 来週から働いてもらうことになった。