虚と実

 小社創業の頃の大きな仕事に『心理学|梅津八三の仕事』があった。収録した講演の記録のなかで梅津は、重複障害をもつ子供たちを前にして、手をこまねいて見ているしかなかったことが自分の学問の始まりと語っている。その梅津に「虚」と「実」についての興味深い言葉があったことを思い出し、旧友であり、『心理学|梅津八三の仕事』でいっしょに仕事をした中澤さんに電話で確かめた。正確に知りたかったからだ。中澤さんは、わたしが不正確ながら「虚」と「実」についての梅津の言葉を記憶していたことに驚き、ありがとうと言った。ありがとうはわたしのほうで、素直にうれしかった。
 実に居て 虚に遊ぶべからず
 虚に居て 実を行なうべし
 橋本さんから送られた膨大な写真群を1枚1枚めくっているうちに不意に思い出したのだ。おととい、橋本さんが来社された折、上の言葉を伝えた。橋本さん、何度も口にし、噛み締め、言葉の意味を味わうようであった。
 きのう、橋本さんからFAXが入った。梅津八三の言った言葉を正確に知りたいから、もう一度教えて欲しいという。橋本さんにも響いたのだなと思った。