桜さん
自分の内ばかり覗いて歩いているうちに季節はめぐり、梅が咲き、桜はまだだが、横浜あたりでは24日頃に開花するらしい。
桜さんの木と話す方から手紙をいただいた。昨年の二月から大学構内にある桜さんの木のそばで煙草を喫いながらお話をするようになったそうだ。いろいろいろいろ、いろいろ。最近の世相についても話す。ところが、桜の花が満開になると、賑やかな学生たちにその場を奪われ、桜さんとの間に溝ができて、お話はしばらく中断。それでも、やがて日はめぐり、夕刻の淡い光のなかに桜の花びらが舞うようになると、学生たちはいなくなり、また二人の、いや、ひとりと一木の会話が戻ってくる。夏も秋もそうして過ごしたという。冬はデクノボウ。
わたしも、その方の真似をして、優しく厳しい桜さんを見つけ話しかけてみたい。
むかしは、さくらがさいただのちっただのと、オオワラワの時代があったそうで。桜の花が咲く薗のわきを通ることがあります。そう、一番早く咲き、いつの間にか散っている、若葉をみずみずしく残して、そういう一本の弱弱しい桜の樹がある、毎年見てきたさくらの木です。鳥目の蝙蝠は、後ろにタテを感じつつヨコになっているのだそうです。風が運んできてくれた、むかしのラヂオのザーザーという音をたよりに、むかしの横浜はブルーライトだったのかと瞳をとじます。