東洋と西洋

 詩人の飯島耕一さんから大判の郵便が届く。中にゲラが入っていた。来春刊行される『江戸文学』の原稿中、新井奥邃に触れたが、内容に間違いがないか読んで欲しいとのことだった。
 数頁に渡る紹介の長さもさることながら、内容の素晴らしさ、簡にして要を得た記述に唸った。『知られざるいのちの思想家』と既刊分の『新井奥邃著作集』をお送りしてからまだ三ヶ月にも満たないのに、これほどまで読み込んでくださったのかと思ったら、文字が揺れてなかなか読めなくなった。編集者の内藤君はゲラを読み、開口一番「はじめて新井奥邃が分かった気がします」と言った。
 飯島さんは、バルザックの研究家、翻訳家でもあり、スウェーデンボルグやヤコブ・ベーメの思想にも通暁しておられ、他方、最近では詩誌『ミッドナイト・プレス』に「白紵歌」を連載するなど、東洋思想にも明るい方。また、詩のほうでは、「戦後半世紀の総決算」と絶賛された『アメリカ』を上梓したばかり。
 そういう飯島さんが、荻生徂徠をはじめとする天の思想に触れながら、その文脈で奥邃を紹介し、さらに、今日のアメリカを視野に入れた世界における奥邃の射程に言及しておられる。
 ゲラの最後のほう、飯島さんは、奥邃についてもっと知りたいと仰っている。有り難いことだ。
 『アメリカ』と『新井奥邃著作集』が飯島さんのおかげで太いパイプで繋がった。『著作集』第9巻は今月末か来月初めには出る。最終第10巻にはコール ダニエル先生の労作「聖書との対照表」が入る。
 日本の初代文部大臣の森有礼の指示によりアメリカに渡った日本人・奥邃が身をもって習得した西洋の思想、それが、百年の時空を超え、今ようやく明らかにされようとしている。その端緒が『著作集』ということになるだろう。
 「人間だけが外の思想を学習によって自分のものにできる」とした教育哲学者・林竹二の言葉が不意に思い出された。