竹内レッスン

 竹内敏晴構成・演出による「からだ2005オープンレッスン 八月の祝祭」を観てきた。「観る」といっても、通常のいわゆる観劇とは異なる。「オープンレッスン」というところがミソなのだろう。
 第一部「からだとことばの公開レッスン」は「菜の花畑に 入日薄れ、見渡す山の端 霞ふかし」で始まる唱歌「朧(おぼろ)月夜」を参加者全員で歌い、第二部は「砂漠のかなたに、火が見えた!」のタイトルのもと、グループのメンバーが今どういうところで、どういう困難を抱えながら生きているのかを表現し、舞台に上らせたもの。上演に先立ち、「愚かだったりだらしないと思われるところもあるかもしれないが、笑ったり泣いたり野次を飛ばしたりしながら観ていただければありがたい」とあいさつをされた竹内さんの言葉が印象に残った。
 登場人物たちのおそらくナマの日常(職場における、また家族との葛藤の)にモチーフを探り、そこから表現の極みへ押し出すというのか、吟味するというのか、他に類を見ないものであり、現代における酷薄な日常が白日の下に曝され、共感せずにはいられない。知らず知らず、我ながら、気づけば涙が零れていたし笑わしてもらえる場面も多くあった。いわゆるエンターテイメントとして観ようとしたら戸惑うかもしれないが、深く自分の日常に釣り糸を垂らそうとする時、彼らが提示し表現しようとする切実な願いから逃れられる人は誰もいないと思われた。
 また、毎度感じることながら、竹内敏晴という人の凄さを今回改めて感じた。竹内さんにとってレッスンとは生きることそのものなのだろう。
 今年ドイツに招かれた時、ご家族はたいそう心配されたそうだが、竹内さん、それに対し「レッスンをしに行く」と答えたという。生きることをとことん味わい、考え、困難を抱えながらも前に進もうとする人にとって「竹内レッスン」はまさに足下から続く「砂漠のかなたの火」ともなろう。