千葉修司

 この二月から窪木君というアルバイトの学生が会社に来ている。紅葉坂を上る窪木君を後ろから見ていて、ふと、寺山修司を思い出した。そのことをあるとき窪木君に告げたら、窪木君は寺山が好きなのだと言う。あこがれだと言う。窪木君は千葉県出身。それならというので、窪木君に「今日から君は窪木君ではなく、千葉修司!」。以来、ぼくは窪木君を本名で呼ばずに千葉修司と呼んでいる。このごろだんだん呼ばれ慣れてきたのか、千葉修司は「千葉修司!」と呼ばれると「はい!」と返事する。アハハハハ…
 ぼくは「千葉修司」の音が大好きだ。どう言ったらいいか。「ちばしゅうじ」をちょっぴりデフォルメし「ちばっ、しゅうううううううじ」あるいは「ちばっ、しゅうううううううじぃいいいいいっ!!」とやる。わけもなく、なんだかとっても楽しい。今はどうか知らぬが、昔、バスケットシューズのことを略してバッシュと言った。バッシュ。それに「ち」を付けると「ちバッシュ!」。おもしれえ!!
 仕事に行き詰まったり、退屈したりしてくると、ひとりで「ちばっ、しゅうううううううじ」あるいは「ちばっ、しゅうううううううじぃいいいいいっ!!」。すると、向こうのほうから千葉修司が「はい!」といい返事を返してくれる。この頃はぼくの遊びがだいぶ分かってきたらしく、遊びだなと思ったときは千葉修司は返事をしなくなった。そうなればなったで、むむ、おぬしなかなかやるな千葉修司。「ちばっ、しゅうううううううじ」あるいは「ちばっ、しゅうううううううじぃいいいいいっ!!」。際限がないのである。