個人情報保護法

 梅雨の晴れ間は貴重で、洗濯物を屋外に干したり、溜まったシャツを出しにクリーニング屋に寄ったり、なにかと忙しい。
 そのクリーニング屋でのこと。これまでのシステム(というほど大げさなものではないが)では、自分の家の電話番号下四ケタと名前を告げ、洗い物をテーブルの上にドカッと置いた。ところが昨日、前のとおり大きな声でそれをやったら、注意された。電話番号も名前も言わないでくれと。個人情報保護の意味で、その方式を近頃やめたと。これからは、はい、このカードにお客さまの名前と電話番号をお書きしましたから、これを黙って見せるようにしてください…。
 はい。わかりました。と言ってカードを受け取り外へ出たものの、これからのことを想像したら気が滅入った。
 だってそうじゃないですか。クリーニング屋に入り、「ごめんください」と言ってあいさつする。あとは名前も告げず、洗い物をテーブルの上に置き、「はい、これ」とカードを示し「お願いします」と言うだけ。余計なことを一切言ってはいけない、みたいな。カウンター越しのちょっとしたやり取りが面白かったのに、これでは全くのビジネスライク。一見無駄と思えるものも長い目で見たら無駄でないことだってあるはずなのに…。『モモ』に登場する灰色の男たちにあっちもこっちも、だんだん支配されていくようだよ。そのうち寿司屋に入ったら長い棒を渡され、ネタを言う替りに値札を棒で指し示すようになるぞこれでは。棒と棒が交差し無言で喧嘩が始まったりして。変な世の中だ。