小泉さんの発言

 なんの問題のどういう文脈だったか忘れてしまったが、記者の「それはポーズだったということでしょうか」の質問に対し、記憶違いでなければ「前もってそのことを言うわけにはいかないでしょう」とかなんとか小泉さんは答えた。小泉首相だ。そういうことを記者の前で公然と言うか普通? 前言を翻すことをこの人(に限らないけれども)はなんとも思っていないどころか、話し言葉というものが儚いものだということを憎らしいぐらいに知悉しているように見える。
 ウィリアム・サロイヤンの「哀れ、燃える熱情秘めしアラビア人」という短篇小説のなかで少年の「私」が言葉について母に尋ねる場面がある。(ホースローヴおじさんと、おじさんが連れてきたアラビア人がなんにも話をしなかったことについて)「なんにもものを言わないで、どうして話をすることができるの」。母は答える「言葉に出さないで話をするんだよ。わたしたちはいつも言葉に出さないで話をしているんだよ」。「では、言葉はなんの役にたつの」と「私」。「たいていの場合には、たいして役にたたないんだよ。たいていの場合は、ほんとに言いたいことや、知られたくないことをかくすのに役にたつだけなんだよ」
 ここに庶民の知恵と歴史と孤独が秘められている。言葉の欺瞞をあばいている。政治家が言葉の儚さを悪用してものを言うようなら民主主義も何もあったものではない。学校なんかやめちまえってことになる。即解散!!