煙が出た!

 我らが編集長・武家屋敷ノブコが物を大事にすることはつとに有名。代表的な事例としては、彼女の机の上にあるちびっこ鉛筆のケースが挙げられる。
 さて、今回みなさまにご紹介するのはドライヤーであります。以下は昨日の昼食時の会話。
 「先だって、旅行券が当たるというJRの立ち食い蕎麦屋のハガキを送ったけれど、なしのつぶてよ、ああいうのはなかなか当たらないものだねえ。今度、おれ、ブルースのCD数枚買ったら、景品がもらえる応募ハガキが付いていてさ、必要事項を書いて送ったよ。1等が10万円の旅行券というのは魅力だろ、でも、1等賞は一人だけだし、確率が低すぎるよ。武家屋敷はこれまでになんか当たったことあるの」
 「小学校の5年か6年のとき、雑誌に付いていたハガキを送ってドライヤーが当たったことがあります」
 「へえ、凄いじゃん。でも、小学生じゃ、ドライヤー使わないだろ」
 「ずっと持っていて、高校生になってから使いました」
 「へえ、それから」
 「大学は東京だったから、持ってきました」
 「へえ」
 「就職してからも大事に使っていたんだけれど、あるとき、急に熱が出たかと思ったら、煙まで出てきてとうとう壊れてしまった…」
 「……凄いねえ」
 「何がでございますか?」
 「さすが武家屋敷、と思ってさ」
 「は?」
 「煙が出るまでドライヤー使うなんて、おれ、初めて聞いたよ」
 「そうですか。あれはたしか外国製のもので、とても頑丈、素敵なドライヤーでしたから」
 「ふむ、にしてもさ」
 「いいドライヤーでした」
 「いいドライヤーか」
 「はい」
 「武家屋敷の、その、物を大事にするこころというのは誰かから教わったものなの。それとも、お母さんがそういう人だとか」
 「母はよく、安物買いの銭うしないと言っていました。高くてもいい物を買いなさいと…」
 「それで、ドライヤーも煙が出るまでか。ちなみに、そのドライヤーが壊れてからはどうしたの」
 「日本製のにしましたが、そんなに長持ちしません。何個か買い換えています」
 「日本製のも煙が出るのか」
 「いえ、煙は出ません。煙は出ませんが、壊れる時には壊れます」
 エレベーターを降り、颯爽と前を歩く武家屋敷の背中がひかり輝いて見えた。
 以上、物を大事にする伝説の編集長・武家屋敷ノブコの発煙ドライヤーの一件、ご披露させていただきました。脚色一切なし、発言の内容そのままの記述であります。