似たもの同士

 

 霞立ち幼き叔父の紅き山

南伸坊さんと糸井重里さんの紀行対談集
『黄昏(たそがれ)』は、
くだらなくも、おもしろい本ですが、
そのなかに、
年をとるとめまいが起きてくることについての
考察があります。
伸坊さんがあるとき、めまいがしたので、
心配になって医者に行ったら、
めまいは加齢とともに起きる現象で、
耳の中の三半規管が影響していると言われたそうです。
それはわたしも学校で習ったので、
本を読みながら、ふむふむと納得しました。
ところで、その医者がさらに言うことに、
ひとの話を聞くとき、必要以上にうなずく人は、
めまいが起きやすいのだとか。
また、
髪の毛が長く、
目にかかった髪を首を振ってかきあげる人は、
めまいが起きやすい。
そういう珍しい知識を教えてくれた医者の頭に
毛はなかったそうです。
その話を読んだとき、
わたしはすぐに友人のI君を思い出しました。
I君は、ひとの話を聞くとき、
腕組みして、何度も大きくうなずきます。
そうすると、I君はもうすこし年をとると、
めまいが起きてくるのでしょうか。
でも、と、わたしはすぐに思い直しました。
というのは、
I君の頭は、除雪車で雪を払いのけたように、
頭の真ん中にツルツルの道ができていて、
髪の毛をかきあげる必要は、金輪際ありません。
ですから、
ひとの話にうなずくことでめまいにつながるマイナスを
ツルツル頭が相殺し、
I君はきっと年をとっても
めまいが起きてくる心配はないでしょう。
かく言うわたしも、
I君に負けず劣らず、ひとの話にうなずいたり、
相づちを打ったりすることが多いようです。
でも、わたしの頭も、I君同様、
長い毛が生えない頭ですから、
首を振って髪をかきあげる必要はありません。
I君の頭の毛が50本なら、
わたしの頭の毛は100本くらいでしょう。
ですから、二人は50本100本なのです。
50本100本…。
ちょっと自虐的ですが、
どこが可笑しいかというと、
二人とも禿げていますから、
五十歩百歩と言うべきところ、
風前の灯の髪の毛が数えるほどしかありませんので、
50本100本。あはははは…。
それはともかく、わたしもI君も、
ひとの話を聞くとき、うなずく回数を減らせば、
まず、めまいは起きないでしょう。
小椋佳さんの歌で「めまい」というのがありますが、
小椋さんも「めまい」の起きない頭です。

 春眠や車中窓外富士の峰

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