笑顔が効く

 夜、仙台の瀬上先生から電話。「具合はいかがですか?」その声を聞いただけで、折れた骨がほんの少しくっつくようなのだ。本当だ。気持ちというのは恐ろしい。自分でコントロールできない。落ち込んだ気持ちを明るいほうへ持っていくのは至難の業。今回それが身に染みて分かった。わたしはどうも普段躁状態で生活している。落ち込んで、もがき、これからやってくる楽しいことを想像して穴から這い出ようとしたが無理。
 瀬上先生は回診のつもりで一日一回電話してくださるという。超多忙のなかありがたいことだ。出版人の血が騒ぎ、これはぜひ本にしなければと思い、そのことを先生に告げた。タイトル『骨が折れたら… 杜の都の診察室』(仮題)。先生、アハハ…と笑いまんざらでもなさそう。が、「三浦さん、骨が治ってから考えましょう」と言われた。それもそうだと反省。
 ぼくの幼なじみにハルミちゃんという娘(いまオバさん)がいる。秋田の内科の病院で働いているが、父も母もその病院の世話になったことがある。秋田に帰ってよく聞かされるのは、ハルミちゃんの笑顔を見るとちょっとした病気なら治ってしまう、ハルミちゃんだけでなく他の看護婦さんも皆そうだと。「ハルミちゃんの笑顔を見ただけで…」の言葉を少し大げさだと思いながら聞いてきたが、それは大げさでもただの褒め言葉でもなく現実のことなのだと合点がいった。鎖骨一本折っただけでとんでもなく落ち込んだから、人の笑顔が普段と違った意味を帯びて感じられるようになった。それと、声。