さまざまのこと 16
小学校への登校は地域ごとの集団登校。先頭の六年生以下、
きちんと二列に並んで歩いたものです。
授業開始まえに体育館でのあそびの時間もありますから、
寄り道をすることはありません。それにくらべ、下校となると、寄り道、道草、
なんともたのしく、ワクワクしたものでした。
「キリストはすぐに来る」という、
黒い地に白い文字で記された意味ふめいの看板を見たのは、
営林署の事務所のあった寺沢という場所でしたが、
そこに、
とても優秀なセンパイがいるということをクラスの友人Yくんから聞き、
おそらくYくんといっしょに訪ねたのがさいしょだった
と記憶しています。
センパイは、こころよく、
じぶんの作ったものをいろいろ見せてくれましたが、
そのなかにUコンの飛行機がありました。目を奪われました。ひとめぼれ。
じぶんで作る飛行機といえば紙飛行機ぐらいしかなかったのに、
Uコンは、
小型ながらちゃんとエンジンが付いていて、飛ぶのに燃料が要る。
金属のワイヤー二本に引かれはするものの、
爆音をたてて大空を舞う。
烏がおどろいてギャーギャーわめき散らす。
センパイがあやつるUコンの飛行機に見入り、魅せられ、
さっそくじぶんでも作ってみたくなった。
こづかいをためてUコンを買ったのは、それからどれぐらいたっていただろう。
学校から帰るや、時間をかけひたすら作った。
やがて機体が完成。
と、
へんな想像がわく。ワイヤーを付けずに飛ばしたら、どこまで飛んでいくだろう。
井内を越え、大台を越え、かっち山のほうまで行くだろうか。
おおい雲よ。
燃料が切れ、さいごに落ちてこわれても、かまうものか。
それを試したい欲望がもうぜんと湧き、
どうすることもできない。
完成した機体を持ち、家を出て、Hくんの家の前の広いコンクリートの庭で、
人差し指と中指でプロペラを回しす。轟音をたて、プロペラが回る。
鼻水と涙がいっしょにでてくる。
センパイのとおんなじだ! ワイヤーは付いてないけど。
機体を押さえる左手には、
まるで生き物のような強い力が伝わってくる。バルルルル…
もう、抑えておくことなどできない。
空のとおく、とおく、どこまでも飛んで行け!
パッと機体から手を離す。
勢いよくわたしの手を離れた機体は、10メートルも飛ばないうちに、
グチャッと地面にたたきつけられ、片方の翼が折れた。
しばし呆然。
破損して散らかったバルサ材を集め、家に帰った。
家のものになんと言われたか、弟にどう話したのか、
まったく記憶がない。
・春の雨雲に緑の映えるかな 野衾