ちがいはなに?

 病気やケガをしたとき保険会社から給付金が下りるかどうかは当人にとって切実な問題。
 あるとき知人Aのところに電話がかかってきた。Aは、20代の女性で大手保険会社に勤めており、電話の主はAが担当したお客さん。
 「あのう、ケガをしまして、手術のための給付金が下りるかどうかと思って電話したんですが…」
 「どこをケガされましたか」
 「それがそのう、変なところで急所のタマのほうなんですが…」
 「はい??」
 「インノウ、っていうんですか。裂けて中の白いものが見え、数針縫わなければならなくて…」
 若い女性への質問に窮していると感じたAは、しかし、当人にしてみれば切実だろうからというので冷静でありながら急所を射るように答えた。すなわち、キッパリと「陰茎裂傷縫合術に対しては給付金が下りますが、陰嚢裂傷縫合術に対しては下りないことになっています。失礼ですが、裂けたのはタマのほうでしょうか茎のほうでしょうか。そうですか。申し訳ありませんが、今回の場合、支給はできないことになります」
 話の内容からいって社内緊張した空気が流れたらしい。とは言い条、うら若き女性がタマだの茎だのの単語を耳だの指だのと同じレベル、同じテンションでさらりと言ってのける可笑しさを、他の社員は聞くともなく聞いて必死に笑いをこらえていたとか。Aにしてみれば、訊きづらい質問を勇気を出して口にしている客へのこれまた必死の冷静さ、演出だったのだろう。人知れず苦労があるものだ。