好きの味

 

さだかではありませんが、
小学校の図書室に伝記を並べたコーナーがあった
と記憶しています。
エジソン、リンカーン、ベートーヴェン、ナイチンゲール、キュリー夫人、
日本人なら、聖徳太子、鑑真、おっと、これは中国人か、
徳川家康、二宮金次郎、
など。
背文字がデカくて、
「これを読みなさい」と上から諭されている気がして、
というのはウソで、
そのころは伝記だろうがなんだろうが、
とにかく本を読みませんでした。
家にも本はなかったし、
親に本を読めとも言われなかった。
このごろのじぶんの読書傾向を振り返ってみると、
割と伝記を読んでいることに気づきました。
それも分厚い伝記を好んで読んでいるようです。
じぶんのことなんだから
「ようです」は少し変ですが…。
なんでか?
と考えてみるに、
クロニクルな伝記的事実を知りたいというよりも、
著者が、記述しようとする人物を、どのように愛し、どこに、何ゆえに惚れているのか、
いわば「好き」の味を確かめるのが楽しい。
そもそも、わたしは、
「好き」「おもしろい」は伝播する、
と信じている人間です。
さいきんでは、
ヘレン・スウィック・ペリーの『サリヴァンの生涯』
が圧倒的におもしろかった。
サリヴァンの身近にいたひとが、
サリヴァンの弱点も洞察しながら、しかし、
サリヴァンの人格のすばらしさを認め、
それが淡々と記述されており、
訳者の一人である中井久夫さんがサリヴァンに惚れこむのも宜なるかな、
と感じました。
さてと、
つぎはだれの伝記を読もうかな?

 

・海の向こうまで掃部山の桜  野衾