内気について

 

好きな映画監督ジム・ジャームッシュの『パターソン』で
圧倒的な存在感を見せてくれたアダム・ドライバーが、
こんどは、
これまた好きな映画監督レオス・カラックスの初のミュージカル作品『アネット』
に主役として登場するという。
アダム・ドライバーという俳優、
わたしは『パターソン』で見たのが初めてでしたが、
彼について弊社から本を出している江田孝臣さんがこんなふうに評しています。

 

映画も詩も、舞台はニュージャージ州の古い産業都市パターソンであり、
どちらの主人公の名前もまたパターソンである。
ただし、詩の主人公は産科・小児科の開業医であったウィリアムズの分身であり、
したがってドクター・パターソンと呼ばれるのに対し、
映画の主人公はニュージャージ州交通公社(NJ Transit)に雇われている
バス運転手である。
二〇一五年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で
二代目ダース・ヴェーダー(カイロ・レン)を演じたアダム・ドライバーが、
内気でおとなしい詩人の役を見事に演じ切っている。
(江田孝臣『『パターソン』を読む ウィリアムズの長篇詩』春風社、2019年、p.13)

 

江田さんの評にまったく同感で、ふかく共感を覚えますが、
オランダ出身のカトリックの司祭で、
1996年に亡くなったヘンリ・ナウエンは、
「内気」について、
こんな文章を遺しています。

 

内気であることには、何か言い知れぬすばらしいものがあります。
私たちの文化は内気であることを長所とは考えていません。
むしろ単刀直入であり、相手の目を見、自分の思うことを語り、
恥じることなく自分のことを打ち明けるようにと奨めます。
しかし、
そのように尻込みせずに自らを開け広げて、恥ずべきことを打ち明ける姿勢には、
すぐにうんざりさせられます。
それは影のない木のようなものに見えます。
しかし、内気な人々は長い影を持っています。
この内気な人々のすばらしさの多くはこの影の中にあって、
つつしみのない人々の目には隠されています。
内気な人々は簡単には説明できない、
また言葉にしきれない人生の神秘を思い起こさせてくれます。
(ヘンリ・J・M・ナウエン[著]嶋本操[監修]河田正雄[訳]
『改訂版 今日のパン、明日の糧』聖公会出版、2015年、p.133)

 

アダム・ドライバーは、
映画『パターソン』のなかで、確かに、
「言葉にしきれない人生の神秘を思い起こさせてくれ」ました。
レオス・カラックス監督の新作映画『アネット』のなかで、
どんな演技を見せてくれるのか、
楽しみです。

 

・うぐひすや千古の光をつれて鳴く  野衾