古代のリーダーたち

 

伝承はモーセがこの歌を歌ったと伝えている
(出エジプト記第15章1節、申命記第31章19節、30節)。
それどころかモーセは最も厳密な意味において、
つまり、
霊媒の働きに似た神に生きる詩人であったのである。
神はモーセに神の言葉の筆写をさせておられる
というのである。
「あなたたちは今、次の歌を書き留め、イスラエルの人々に教え、
それを彼らの口に置き、この歌をイスラエルの人々に対するわたしの証言としなさい」
(申命記第31章19節)。
(加藤常昭編訳『説教黙想集成 1 序論・旧約聖書』教文館、2008年、p.402)

 

上の引用文の冒頭「この歌」とは、詩編第90篇を指しています。
原著作者は、
スイスの著作家、改革派教会の神学者であるクルト・マルティ(1921-2017)
聖書のモーセについて、
このように解釈するのをわたしは初めて読みましたが、
柿本人麻呂や孔子に対する白川静さんの見方
とも重なり、
古代のリーダーたちの心性、
それと、
圧倒的な話し言葉の厚み、深さ、
いわば、ことばの海、
ということを考えずにはいられません。

 

・声無くも摘まめば強し蟬の羽  野衾