静黙の音

 

会社では、いつも小さな音で音楽をかけているのですが、
先日、
なんとなく、
小さな音であっても、
音楽をかけることが憚られるような
そんな気配が社内に充ちている
気がしたことがありました。
きりりとした草原の朝のようでもあり、
深山幽谷の空の下にいるようでもありました。
耳をすませば、
紙をめくる音、
外を走る自動車の音が聴こえます。
ああ、
みんながこの空気を作り出すのに一役買って、
わたしもその一人で、
そうして、
その空気のなかで
わたしも生かしてもらっている。
そんな気がしたのです。
二十年かかりました。
二十年かけて、
この空気が醸しだされたと思いました。
コロナ禍は、
いまのところ予断を許さぬ状況ではありますが、
野にある学術書の出版社として、
真摯に、静かに、集中して、
ながく読まれるいい本をつくりつづけたいと思います。

 

・本を閉じひと風呂浴びて涼しさよ  野衾