詩の根源を求めて

 

呪言は呪術儀礼が万有を支配しうるとする共感的な世界観の所産であり、
諷誦は人々の感情と知性とに訴えるもので、
人々が神秘的な世界観、
集団表象の緊縛から脱してきた世界において成立する。
そのような世界こそ、
宗教的観念に連なる言語観から脱して、
自由にその感動を形象化する、[詩]を成立せしめたところの基盤である。
従って原初の呪言的な世界から[詩]の世界に移行するためには、
社会的基盤の変質が必要であったのである。
しかしそういう変質は、
実は社会構造の変革という社会史的な変動がなくては、
もたらされがたいものであった。
[詩]の時代は、
これを社会史的にいえば、古代氏族社会の崩壊によってもたらされた。
それは殷周革命が結果したところの、最も大きな変革であった。
(『白川静著作集 9』平凡社、2000年、p.320)

 

[詩]の世界の前の時代に位置する豊饒な呪言的世界。
それが崩壊して初めて[詩]の世界が歴史上現れるという白川さんの考えは、
言葉と物の関係の大きな広々とした世界へいざなってくれるようだ。
中国の『詩経』のことを論じつつ、
たとえばギリシア、日本へと想像は飛翔する。

 

・眼が慣れて動くものゐる木下闇  野衾