面目躍如

 

少しくだくだしいくらい、彼の登山について書いたのは、
ここに彼の面目が最も多く活躍しているからである。
それは先ず岩波の山に登る体力と情熱の旺盛にも、
山に慣れた健脚と技術にも、
山登の直往、独往にも、
人夫の来るのを待ちかねるせっかちにも、
その住宅にすぐ水洗便所を作るのに対して、
大自然の中にわざわざ野糞を垂れたがる好みにも、
一方に細かい心遣を持ちながら、
人に迷惑をかけたり世話になったりして平気でいるところにも。
山登ばかりではないが、
多忙の中に火のつくように思い立つ実行力にも。
(安倍能成『岩波茂雄伝 新装版』岩波書店、2012年、p.361)

 

終りまであと少しありますが、
伝記のおもしろさを堪能。
安倍能成が岩波茂雄をいかに愛していたか、
それが直に伝わってきます。
岩波の面倒見のよさもこの本で初めて知りました。
陰徳ということばのあてはまる人間は、
そうそうあるものではありませんが、
岩波にはあてはまりそうです。
その辺のところも阿部は見逃していません。

 

・春の雪ささやくごとくあえかなる  野衾