成長する役者たち

 大河ドラマ「義経」第8話「決別」を観る。遮那王が都を離れ奥州へ行くことを決意し、お徳の計らいで、清盛、母の常盤に別れを告げる。
 まず、この回でわたしは初めて清盛が清盛に見えた。照明の効果も抜群、「夢を見るには力がいるぞ」のせりふを言う渡哲也は西部警察の渡哲也ではなかった。
 驚いたのは、常盤役の稲森いずみ。成長し今は遮那王となっている我が子牛若との別れの場面でのこと。滝沢秀明演じる遮那王は、母はわたしを捨てたのだとかつて思ったことを詫びる。幾度も涙を流した夜もあったけれど、世の中のことがだんだんとわかるようになり、あれは母の捨て身の行動だったのだと気付き、ありがとうございましたと頭を下げる。常盤は、今までの苦労はその一言で報われましたと目に涙を浮かべる。さて、問題はこの後だ。
 暇乞いをする遮那王に、しばらくお待ちをと言って立ち上がる。我が子のために縫い上げた召し物を取りに行こうとするその瞬間、ちらりと横顔が見える。わずか1秒ほどのことだったと思うが、うれしさに上気する母の気持ちが満面に現れ眼を奪われた。下世話で申し訳ないが、セックスを思わせるようなエロティックで狂気の輝きに満ちている。凄い!
 成長する役者たちと演出の冴えをまざまざと見せつけられた回だった。常盤の夫・一条長成役の蛭子能収の芝居は、彼の描く絵のようにヘタウマでそれなりにリアリティーを感じさせ、好ましい。こういう成長する役者たちに育まれ、義経は滝沢義経となって平成の世に甦るだろう。それを予感させる回でもあった。役者が役になることの過程と困難をつぶさに見られるのがまた大河ドラマの魅力であるかとも感じさせられた。
 弁慶は、いるだけで、ぐわっはっはっの笑い声が聞こえてきそうで可笑しいよ。なので、○。