本と片恋

 

渥美清としてのものだったか、
『男はつらいよ』での寅さんのセリフだったのか定かではありませんが、
恋の本質は片思いにある、
みたいな言葉があったと記憶しています。
思っているだけなら、
こちらがどんな立場であれ、
相手がどんな立場のひとであれ傷つけることはない…。
ときどきその言葉を思い出しては、
それって本に似ているなと。
このごろまた本を買うことが多くなりました。
リアル書店で買うことはほとんどなくなり、
ネット書店でばかり買っています。
古書もしかり。
想像、妄想、興味、関心、
いろいろひろがって。
すでに一生かかっても読み切れないほどの本が
自宅にも会社にも所持しているのに
それでも買ってしまいます。
いかにもムダのようにも思えますが、
どんな内容のどんな装丁の本かなとウキウキした気持ちで待っているときの気持ち、
本がとどいて包装をとくときの気持ち、
本を手に持ち重さを感じる瞬間の気持ち、
パラパラ適当にページをめくって
文字の大きさや字配りをながめるときの気持ち、
などなど、
わずかな時間ですが、
極端なことをいえば、
その高揚する気持ちを味わいたくて、
つぎつぎと本を買っているような気もします。
もちろん買って読む本もありますが、
強がりでなく、
仮に読まなくたってもいい。
好きになったひとに
じっさいは声をかけることがなくても、
遠くからながめてどんなひとだろうと想像する、
それも本を買うときの気持ちに似ている気がします。

 

・印刷はぜったい無理の躑躅かな  野衾