詩の一行

 

ウォルト・ホイットマンの『草の葉』(酒本雅之訳、岩波文庫)
を読んでいたら、
トンブクツーが出てきた。
「ぼくには見えるアルジェ、トリポリ、デルナ、モガドル、トンブクツー、モンロビアが、」
の一行。
忘れもしない、わたしのすきな詩「世界は一冊の本」のなかの一行、
「ウルムチ、メッシナ、トンブクトゥ、」
トンブクツー、トンブクトゥとは?
サハラ砂漠南縁にあるマリ共和国の都市で、
1988年、世界文化遺産に登録された。
この詩の作者である長田弘さんと対談した折、
長田さんにお願いし
この詩をご本人に読んでいただいた。
そのときのとつとつと発音された「トンブクトゥ」の声が音が
いまもわたしの耳にのこっている。
もう長田さんに尋ねるわけにはいかないけれど、
「世界は一冊の本」の詩をつくるとき、
どこかで
ホイットマンの『草の葉』にある「Tombouctou」が
聴こえてはいなかったか、
響いてはいなかったか。
よきアメリカを愛した長田さんは、
きっとホイットマンの詩も好きだったのではないかと思う。
なにかのエッセイで書いてあったかもしれない。
わたしが忘れているだけかもしれない。

 

・羽ばたかず地を這ふ冬のかはびらこ  野衾