ソフトクリーム

 風邪をひき熱にうなされ眠ったせいか、変な夢ばかり見た。
 あれは故郷秋田の駅か昨年社員旅行で訪れた函館の駅、あるいはそれが合成されたような雰囲気の駅で。喉が乾いていたわたしは「美味しいソフトクリームあります」の看板に目を奪われ、さっそく一つ買うことにする。
 間もなくビニールの筒状のものを渡され、訝っていると、「480円になります」と売店の娘は言った。ソフトクリーム1個480円は高過ぎやしないか。でも、わたしにだけ高く言うはずはないから、仕方がない。何か特別の材料と製法で作り高価なものになっているのだろう。財布から500円玉を出して娘に渡し、お釣りを貰う。
 さて、ソフトクリームだ。普通ならコーンに入っているところ、480円もするそのソフトクリームは、まるでジュンサイでも入っているようなビニールの筒に入っており、端を破ってチューチュー吸わなければならない。チューチュー、チューチュー、チューチュー。顔をひょっとこのようにし、いくら吸っても、泥水のような味がするばかりでちっとも美味くない。が、なんだこの味は! と怒鳴る気力もない。もう何もかも無意味なような気がしてきた。
 グジュグジュになったビニールの筒をゴミ箱に捨て、それから電車に乗った。
 ふと思った。あれは、そのまま食べるものではなかったのでは。あれを材料にし、自宅の台所でソフトクリームが作れるという代物ではなかったか…。とは言っても、戻って確かめる気力もなく、粗忽な自分がほとほと嫌になり、今にも雪が降ってきそうな鉛色の空を窓からぼんやり眺めていた。体の芯がますます熱くなってくるようだった。