セミの死骸があちこちで目につくようになりました。
先日、
駅ホームのベンチに腰掛けたところ、
すぐ目の前にアブラゼミ
がいました。
もしや生きてやしないかと思い、
そっと触れてみましたが、
ピクリとも動きません。
ほんの数分前まで生きていたのかもしれません。
わたしは鞄から読みかけの文庫本を出し、
読み始めました。
となりに二歳ぐらいでしょうか、
ちっちゃい男の子と
その横に若い母親が座りました。
「ようちゃん、ほら、セミ」
ようちゃんと呼ばれた子は、
目の前のセミを目ざとく見つけ、
右手を伸ばして摘まもうとしました。
転瞬、
死んでいるとばかり思っていたセミがジジとバタつき、
勢いよく飛んでいきました。
ふらつくことなくまっすぐに。
快晴とまではいきませんが、
青空がホームの屋根に触れています。

 

・散髪を待つ間のテレビ猛暑告ぐ  野衾