繋驢橛

 

森田正馬の本や
森田に関する本を読んでいて知ったことば「繋驢橛」
けろけつ。
仏教用語だそうで、
大辞林によれば、
「驢馬をつないでおく杙(くい)のこと。
禅宗で、精神の自在を奪って、向上を妨げるもの、
無意味なもの、無価値なもののたとえとして使われる」
神経症のひとが、
感情を理性でコントロールしようと意図し、
かえって身動きが取れなくなり
いっそう苦しさを増すことに気づかない、
その状態をとらえて
森田がつかった用語だ。
繋驢橛と対比的に
森田はまた、
「事実唯真」ということを強調する。
じじつただしん、
あるいは、
じじつただまこと。
気分本位から事実本位になることが肝要であると。
「恐怖突入」「あるがまま」などをふくめ、
森田の思考と思想が、
ふかく仏教
とくに禅に根差したものであることを
今回、
畑野文夫『森田療法の誕生 森田正馬の生涯と業績』(三恵社)
を読んで教えられた。
著者の「あとがき」に、
「学生時代に強迫神経症で入院森田療法を受け」
のことばを見つけ、
やはり
と納得するところがあった。
森田本人の著書にも感じられることだが、
みずからの体験を通して
書かれた文独特の
迫力と細やかさと謙虚さに打たれる。
今年は森田正馬没後80年。

 

・はたはたと夕を賑はす蚊喰鳥  野衾