人物再登場

 

バルザックの小説には、
ある小説で少しだけ登場する人物が、
彼の別の小説では
主要な人物として動き回るということがあります。
なので、
バルザックの小説は、
一冊独立したものとして読んでも
もちろんおもしろいけれど、
つぎつぎ読み進めると、
当時のフランス社会の人間群像が浮かび上がってくるようで、
小説読み、バルザック読みには
堪えられない面白さがあります。
さて、
いまわたしが読んでいる原稿に、
フェリックス・ド・ヴァンドネスなる人物が登場します。
このフェリックス、
バルザックの最高傑作とされている『谷間の百合』で、
モルソーフ伯夫人アンリエットに恋をし
愛を告白する青年です。
それから二十年後、
フェリックスは、
ある女性と結婚し、
すっかり中年になっています。
フェリックスは『谷間の百合』以外にも登場しますが、
とくに『谷間の百合』を読んだ者には
つよく印象付けられていますから、
その後のフェリックスがどうなったか、
それが描かれている小説ということになれば、
面白くないわけがありません。
タイトルは『イヴの娘』
戦前、一度翻訳が出たようですが、
今回はその新訳になります。
訳者は、
『バルザック王国の裏庭から――『リュジェリーの秘密』と他の作品集』
の翻訳を弊社から上梓した宇多直久さん。

 

・二羽の鳥電線の春たわみけり  野衾