弔辞

 秋田の父から電話があった。父の幼馴染で、長男がわたしと同級、次男が弟と同級のK氏が突然亡くなったとのこと。
 K氏の長男がやって来て弔辞を頼まれ、父は強く断ったそうだが、どうしてもと言われ、引き受けたとか。「読んでみるから、おかしいところがあったら教えてくれ」
 父の言葉を聞きながら、頭は中学二年生の時に飛んだ。宿題を忘れると耳を引っ張る理科の先生で、生徒から恐れられていたおっかない教頭先生が病気で亡くなり、わたしは生まれてはじめて弔辞を読んだ。自分なりに教頭先生のことを思い文章を書いて、担任の先生に見せる前に父に見せた。直されたか、直されなかったか、もう憶えていない。
 あらぬ方に行っていた頭が父の嗚咽で現実に引き戻された。涙もろい父はK氏を思って泣いていた。電話口で泣いているようじゃ本番が思いやられるよ、とわたしは言った。今日がお葬式、ちゃんと読めればいいが。