本は肉体

 

・生かされて生きるも哀し雲の峰

 

電子書籍やスマホで文を読むことがふつうになったおかげで、
肩肘張らずに、
紙の本を、
考えるよりも
いつくしむようになりました。
そして、
本は肉体であるなぁ、と。
ラジオで
好きな女優の話を聴くのもいいですが、
じかに接してぽつぽつと
耳を傾けているような。
たとえば志賀直哉『暗夜行路』
主人公の時任謙作と結婚することになった直子が、
謙作と一緒に歩きながら
和服姿で
まるい肩を謙作に押し付けてくる場面など、
思わず、
本をにぎる手のひらに
ほんの少しだけ
汗がにじんでくる気がします。
直子さんのからだの重さは、
しっとりした新潮文庫の紙の重さです。

 

・鬼やんま墓を巡りて去りにけり  野衾