仕事への自信

 ほかの分野のことはいざ知らず、出版、とりわけ編集についていえば、仕事への自信、情熱、想像は、校正、校閲の作業抜きには考えられない。
 演出家の竹内敏晴さんから直接聞いた話で印象に残っているもののなかに、想像力は具体的なものに触れたときに初めて発動する、がある。なるほどと思った。なにも演劇の世界だけに限らないのだろう。
 たとえば授業。教育哲学者・林竹二の授業は徹底的に具体的なもので、恐るべき「人間について」の授業は、大学生相手の場合でも、小学四年生相手の場合でも、内容にほとんど変わりはなかった。具体的な話に刺激され、小学生も大学生も、おのずから豊かな想像力を沸き立たせた。授業記録や写真にその姿が残されている。
 小社から出ている『花と人の交響楽―スペシャルオリンピックスから共生自立の丘へ』に収録してある方で、九州佐賀で押花加工の薬品を開発販売しているクリエイトの豊増社長は、会社を始めた頃、花の特性を調べるのに、まず、花を “自分で食べてみた” と語っていた。唇が痺れたこともあったという。
 編集についていえば、具体性の接触場面が校正、校閲だ。編集者にとっての文章は、豊増社長にとっての花と同じ、と考えたい。
 一冊の本を仕上げるために必要な想像力、創造力、情熱の維持、きめの細かさ、迫力、なまなましさなど、すべてはそこから生まれてくると信じたい。
 そこを離れ、離れたところでいくら頭を悩まし考えてもダメなのだ。むしろ、編集していて悩み始めたら、何度でも目の前の文章に戻り、文章を追いかけ、文章に追われ追い詰められることが問題の解決につながるだろう。
 天才でもない人間が、人に見てもらえる仕事をするにはそれしかないと思うから、若い人には特にそのことを徹底して伝えたい。