話をきく

 ふやけ足梅雨に濡れゐし道三里
 今、『世間師・宮本常一の仕事』という本をつくっています。
 世間師は、せけんしと読んだり、しょけんしと読んだりします。ふつうには、せけんしでしょうね。
 いろんなところへ旅をして見聞し、知識を獲得し、だけでなく、訪れた土地の人々に有益な助言をなす人のことを指します。
 宮本さんは、世間師と呼ぶにふさわしい人でした。「エライ」民俗学者として何十巻にも及ぶ全集も出ていますが、宮本さんに関する今回の本を編集していて、宮本さんエライなぁと思うのは、人の話をよく聞くことです。
 著者の斎藤さんは指摘しています。ほかの学者は、自分のテーマを持って、それに合った話を聞き出して終わりだけれど、宮本さんは違う…。宮本さんだってテーマがないわけではなく、ちゃんとあるけれど、宮本さんの話の聞き方は、テーマに合った話を聞き出すだけで終わらない。宮本さんに対面すると、みんな話したくなるんですね。その違いはどこから来るのでしょう。そのことをこの本では書いています。
 斎藤さんは、愛知県安城市の市役所勤めをしておられます。学生の時に宮本の本を読み、感動し、ずっと読んで来られ、自分のなかであたためてきたものを今回、このような本にまとめます。民俗学にとくに興味のない人が読んでもおもしろい、ためになる本です。ためになる、というよりも、勇気が出る、といったらいいでしょうか。
 学問でなくても、人の話を聞くことは、毎日だれでもやっていることですが、簡単なようでとても難しいことだと思います。

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