虚と実

 

・能楽堂出でて冴え冴え冬の月

「鎌倉発・再生する伝統!」と題する舞台を観てきました。
というより、
聴いてきました。
なぜなら、
神奈川フィルハーモニー管弦楽団弦楽四重奏と
邦楽界の期待の新星・中井智弥(なかい ともや)
それと
観世流能楽師シテ方・中森貫太のコラボレーションで、
音を中心とするものだったからです。
とはいうものの、
最後の演目「井筒」は、
中森が面をつけていなかったからこそ、
むしろ
虚の世界に入ってゆく入り口、
虚の世界を生き、
息し、
さらに実を捉える瞬間から
たゆたう時のふるえを共感できる、
また、
底のない底に身を置くすばらしい舞台。
音は背景。
板に接していた扇の端が
すっと宙に浮いた、
針の穴より小さい虚への移行が叶った
それは一瞬でした。

・千年の井筒の恋の寒さかな  野衾