三月のハエは
洋間のソファーに横になり本を読んでいて、ぽかぽか陽気で気持ちよくなり、いつしか眠ってしまったのだろう。夕刻、そろそろ起きなきゃなぁと、まどろんでいたら電話が鳴った。相手の声に集中する。懐かしい教え子からだった。(教え子、という言葉も相当なものだ。高校時代の教師と生徒の関係がそもそもの始まりだから、教え子。教室、黒板、教壇、机、椅子、授業、…。なにか教えたろうか。現代社会、政治経済、…)
静かにいろいろ話していたとき、窓ガラスに止まっているハエを見つけた。おや、と思った。出てくる季節を少し間違えてやしないだろうか。受話器を持ったまま、1メートルほど近づいたら、ほんのちょっぴり飛び上がり、またガラスにぴたりと張り付いて、はっきりハエだと分かった。なんだか可笑しかった。五月のハエはうるさくうっとうしいだけが、三月のハエは至って静か。ちょっと早かったか、なんてハエ、思っているのだろうか。
このところ、昔聴いていたレコードの知識をぐんぐんと天然の頭のすみから引き出している。シュトラウスのこうもりは、なんとまあ、不倫の話である。あきれた。それを頭に入れていなかった自分にもあきれた。恋愛○○期と云う映画を思い出して、
作り話の世界は麗しいものだと思った。ハエとりがみと、かとりせんこうを家においている。小さな虫がうっとうしい。えらぶっているどこかの誰かが、ふと目に浮んだ。