真っ黒
保土ヶ谷駅の近くのFスーパーによく寄る。会社の帰り、休日。
最近、アルバイトで入った娘なのか、その辺のところは知らないが、おおおっと目を惹く娘がレジを打っている。とにかく、まつげが真っ黒い。顔全体の化粧はそんなに濃くないのに、まつげだけが異様に濃い。二十歳を過ぎているだろうか。高校生かもしれない。なんと言ったらいいのか、誤解を恐れずに言えば、わたしは、その彼女をいとおしく感じる。けなげな感じと言えばいいだろうか。
まつげがマスカラで真っ黒い=いとおしい。けなげ、というのは、あまりに個人的趣味に走っているようにも思うが、たとえば、井上陽水の「飾りじゃないのよ涙は」を、作った本人が歌えば年齢もあり渋くカッコイイのに、若い頃の中森明菜がツッパッて歌えば歌うほど、けなげな感じがして可愛く感じたものだ。この感じ方というのは、いわゆる「オジさん」「オヤジ」の感性かもしれない。いや、そうに違いない。でも、なんと言われようと、そう感じるから仕方がない。世知辛い世の中で精一杯自分らしくあろうとしている姿に見えてしまうのだ。
まつげ真っ黒の娘、ぼくの後ろに並んでいる客がいないのを見とどどけたのだろう。ビニール袋をただ籠に入れずに、わたしが買ったものを一つ一つ袋に入れてくれ、籠は自分のそばに置き、袋のほうを渡してくれた。勘定を払い、真っ黒まつげの娘から袋を受け取り、「ありがとう」と言って外へ出た。
近所のスーパーにすっぴんで出かける。どの道山の中で動物たちに育てられ、ヘラクレス伝説まで持っているらしきわたしなので、中尊寺ゆっこさんのように麗しい容姿ではないけれど、オヤジギャルの成れの果てで、エプロンをつけたまま、すっぴんででかける。髪も短髪。まつげが伸びたようにみえるマスカラが沢山売られているが、それさえつけない。瞳が尋常では無いからだ。化粧(化ける)のを諦めたのは30いくつかの時だった。どの道わたしは蝙蝠なのだから。ふと、あたまをよぎったメロディー、「瀬ーんろはつづくーよーどーーこまーでーもーーー、、、」行き先は地獄だ。